映画「ドラゴン・タトゥーの女」に見る「スウェーデンの裁判制度」=刑事編
陪審制も参審制も、市民が裁判に関わる制度です。
その定義は歴史的にも流動的ですが、現在では、ほぼ、陪審制は、個々の裁判の都度、市民が招集され、有罪無罪という裁判の根幹部分について、市民から選ばれる陪審員だけが判断できる制度とされているのに対し、参審制は、常勤の裁判官の同輩として、市民から一定の任期の間、裁判に関わるものとして、「参審員」が選ばれ、裁判官と一緒になって、有罪無罪を決める制度とされています。
日本の裁判員制度は、2009年に導入されたものですが、個々の裁判の都度、召集されるという点では、陪審制度に近く、裁判官と一緒に有罪無罪を決めるという点では、参審制度に近いとされ、いわば両者の折衷案として採用されたものです。
裁判員制度以前にも、日本でも、陪審制度が、戦前の大正デモクラシーの流れの中で導入された例があり(現在停止状態)、また現在の家庭裁判所の調停員制度や、戦後導入された検察審査会制度も、市民が司法や裁判制度に加わるものとして、陪審制や参審制類似の制度として理解されています。
最近見た映画、「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」では、スウェーデンの刑事裁判のシーンが登場しますので、この映画を見る際の基礎知識として、スウェーデンの刑事裁判制度の仕組みが重要ですので、参考までに、このブログにアップしておきます。
日本では、ハリウッド版のリメイクである「ドラゴン・タトゥーの女」(2011年)が有名ですが、実は、オリジナル映画はスウェーデンで作られ(2009年)、オリジナル版はシリーズ第3作まで作られています(以上→wiki参照)。
その第3作にあたるのがこの「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」で、ドラゴン・タトゥーの女「リスベット・サランデル」(演じるのはとても魅力的な女優さんの「ノオミ・ラパス」→wiki)が、刑事裁判を受けるシーンが登場します。
ハリウッド版:
スウェーデン版:
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※以下、スウェーデンの裁判制度について
・引用:『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会) 第 17 巻 第4号 2015年3月 1頁~ 17頁
ヨーロッパの参審制度、陪審制度についての一考察 ―裁判員制度を視座に―大河原眞美((おおかわら まみ))教授→http://www1.tcue.ac.jp/home1/c-gakkai/kikanshi/ronbun17-4/02okawara.pdf=PDF
スウェーデンも、陪審制と参審制の併用である。陪審制は、出版に関する犯罪及び表現の自由に関する犯罪に限定されている。年間の事件数は年間数件から数十件しかないため、実質的には参審制であると言ってもよいであろう。
スウェーデンには、バイキングの時代からティング(Ting)と呼ばれる住民が参加できる立法、司法、行政を司る村落集会組織があった。部族間の土地の争いなどが起きた時には、各部族から6人ずつの代表を出して、争いを終結させる制度があった。バイキングがイギリスを侵略した時に、ティングもイギリスにもたらされ、イギリスの陪審制の基礎になったと言われている。
スウェーデンの参審制の起源は中世までに遡ることができる。1220年頃から重大な刑事事件や相続や土地の争いなどに参審制が用いられていた。参審員の人数は12人で、当初は事件ごとに選出されていたが、14世紀頃には任期制となった。
国王から任命された貴族裁判官と農民出身の参審員で構成されていた。16世紀半ばから17世紀半ばは、貴族裁判官がデンマーク、ロシア、ポーランドとの戦いに明け暮れていたなか、裁判は参審員のみで行われることになり、参審員の権限が拡大した。1743年の訴訟手続法が制定により都市部の参審制は廃止されたが、地方では参審制が維持されていた。
現行の参審制は、参審員の人数が減員されている。一審は参審員3名と職業裁判官1名で、二審は参審員2名と職業裁判官3名である。
理由は、国家の財政的負担の軽減のためである。対象事件は、1946年の訴訟手続法制定時は、地区裁判所では民事と刑事、都市裁判所では刑事事件であったが、通常の民事事件では外され、刑事事件、税金関係事件を中心とする行政事件、人事訴訟事件である。都市部の参審制が復活し、1971年には都市部と地方の参審制が統一された。参審員の任期は4年である。
一審の地方裁判所では、裁判官1名と参審員3名で、評決が2対2の同数の場合は、被告人に有利な判断がされる。二審の高等裁判所では、裁判官3名と参審員2名である。スウェーデンの参審員は、政党からの推薦された者が多く、学歴や経済力のある高齢者が多い。参審員の政党推薦には、判決者としての独立性の観点から批判もある。参審員の個別評決権が法的に確認されたので、参審員は裁判官と対等な評決権を持ち、参審員の地位が強化された。なお、被告人には選択権がない。
ヨーロッパにおいて、参審制度が一度も消滅したことのない国は、スウェーデンとフィンランドの2ヵ国である。
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