産経新聞前ソウル支局長に無罪判決:その先進性を日本の裁判所も見習うべき!
「これは当然の判決であって、特別に感慨を抱くということはない。記事が気に入らないとして起訴する構図は、近代的な民主主義国家のあり方としてどうなのか。いま一度考えていただきたい」(産経新聞 加藤達也前ソウル支局長)=TBS系(JNN) 12月17日(木)18時37分配信
被害者の加藤さんが述べるのはともかくも、日本政府、メディアや識者の論調では、無罪は当然という論調が目立つ。むしろ大勢の論調は、「無罪は当然」ということだろう。
しかし「無罪は当然」と言われても、日本の裁判なら、真実でなければ、むしろ「有罪が当然」の事件であり、現に裁判では、報道の真実性は否定されていたことから、「日本法」的には、本来は、有罪判決だった。
それが結論として、無罪。
法律家としては、当然にその理屈に関心を持つ。
もちろん韓国政府の今回の起訴、そして判決前の政府の裁判干渉=裁判所に善処要請=産経前ソウル支局長裁判―韓国外務省=時事通信 12月17日(木)15時13分配信 など、無罪までの司法過程の道のりには、韓国の後進国性が批判されなければならないが、かえって今回出た判決は、非常に先進国的判決だ。
すなわち今回の韓国の判決は、先進国レベルの基準=現実の悪意=actual maliceの法理、すなわち今から50年以上前である1964年に確立した米国の「現実の悪意の法理」と、ほぼ同等のルールないし考え方を使って、無罪としているからだ。
そうなると、逆に、公人・私人の区別を設けず、否、公人に対してですら私人レベルと同じ要件で名誉棄損ルールを考え、「相当性」以外の免責要件をいまだに認めない、「公人」を過度に保護する、米国より50年以上遅れている、日本の名誉棄損ルールの後進国性が、浮き上がる結果となる。
つまり今回の判決は、日本の遅れた名誉棄損ルールにも、大きな影響を与える金字塔のような判決である。
起訴の問題性は当然だが、今回の無罪判決は、結果オーライとして、韓国の国民の表現の自由にとっても、我が国の国民の表現の自由にとっても、一機に後進国性を脱するチャンスともなり、本当に良かったと思う。
この判決が、日本人(日本メディア)に対してでなく、韓国人(韓国メディア)に対しても一般化していくことを、のぞみたい。
そして日本の裁判所も、公人を過度に保護する、あまりに遅れた名誉棄損ルールを取り続けることに「恥」を感じ、韓国の裁判所を見習うべきだと思う。
[参考]
■産経新聞2015.12.17 20:06更新 【本紙前ソウル支局長無罪】ソウル中央地裁の判決要旨
■wiki=現実の悪意=actual maliceの法理は、アメリカ合衆国連邦最高裁判所における憲法裁判例( ニューヨークタイムズ対サリヴァン事件、1964年)において明らかにされた。 公人(public figure)に関する表現行為についてのみ適用される法理
■【産経新聞号外】前ソウル支局長無罪[PDF]=http://www.sankei.com/module/edit/pdf/2015/12/20151217seoul.pdf2015年12月17日(木) 19時46分掲載
■産経新聞前ソウル支局長、無罪判決受け「当然の判決」=TBS系(JNN) 12月17日(木)18時37分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20151217-00000048-jnn-int
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉毀損の罪に問われ無罪判決を受けた産経新聞の前ソウル支局長が、ソウル市内で会見し「当然の判決だ」と述べました。
「これは当然の判決であって、特別に感慨を抱くということはない。記事が気に入らないとして起訴する構図は、近代的な民主主義国家のあり方としてどうなのか。いま一度考えていただきたい」(産経新聞 加藤達也前ソウル支局長)
17日、ソウル中央裁判所で行われた裁判で無罪を言い渡された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長は、「セウォル号沈没事故の当日に朴槿恵大統領が元側近の男性と密会していた」などの噂を報じ、名誉毀損の罪に問われていました。
「検察が日本の産経新聞記者の私を悪意を持ち狙い撃ちにしたのではと疑念」(産経新聞 加藤達也前ソウル支局長) (17日18:26)=最終更新:12月17日(木)19時52分
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