タレントの次長課長の河本準一氏や、キングコング梶原雄太氏の生活保護費の受給問題が報じられていますが、その中での、昨日の厚生労働省の発表です。
これは、生活保護費支給後の、福祉事務所の調査を簡便にする措置です。
⇒報道発表資料 2012年5月 資料一覧 2012年5月31日(木)掲載=生活保護法第29条に基づく調査の金融機関本店等への一括照会の実施について|報道発表資料|厚生労働省
生活保護法第29条に基づく調査の金融機関本店等への一括照会の実施について
生活保護法第29条に基づく調査の金融機関本店等への一括照会については、このたび、一般社団法人全国銀行協会に要請し、平成24年12月(予定)より実施することになりました。
これにより、これまで各福祉事務所が複数の支店に別々に照会をしていたところですが、そうしたことが必要なくなることや、より多くの支店の状況も把握できるようになることから、資産調査が効率的、効果的に実施できるようになります。
ちなみに生活保護法第29条とは次のような規定です。
(調査の嘱託及び報告の請求)
第29条 保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定又は実施のために必要があるときは、要保護者又はその扶養義務者の資産及び収入の状況につき、官公署に調査を嘱託し、又は銀行、信託会社、要保護者若しくはその扶養義務者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる。
ほかに生活保護法には、次のような規定があります。
(保護の補足性)
第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法 (明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
つまり4条では、1項で、受給者の資産、能力は、保護の要件とされていますが、2項で、扶養義務は保護の要件ではなく、さらに3項において、保護の必要性が、1項、2項に勝るということとされていることです。
さらに生活保護法には、
(申請保護の原則)
第7条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
という規定もありますので、とにかく、緊急な場合は、保護がまず優先するというのが、生活保護法の建前であることは明らかです。
調査に時間をかけて、対象者が餓死したら、何のための制度がわかりません。実際、行政の怠慢で、市民が餓死したという事件があります。
しかし生活保護法には、第29条の規定以外にも、次のような規定があります。
(費用の徴収)
第77条 被保護者に対して民法 の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。
2 前項の場合において、扶養義務者の負担すべき額について、保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、保護の実施機関の申立により家庭裁判所が、これを定める。
3 前項の処分は、家事審判法 の適用については、同法第九条第一項 乙類に掲げる事項とみなす。
第78条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。
(略)
(罰則)
第85条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法 による。
第86条 第四十四条第一項、第五十四条第一項(第五十四条の二第四項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)若しくは第七十四条第二項第一号の規定による報告を怠り、若しくは虚偽の報告をし、又は第二十八条第一項(要保護者が違反した場合を除く。)、第四十四条第一項若しくは第五十四条第一項の規定による当該職員の調査若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても前項の刑を科する。
要するに、生活保護法の建前は、支給は、命の問題がありますので簡便かつ迅速にしつつ、その後に、不正などが分かった場合は、事後の対処ということです。
したがって、現行の法制度を前提とする限り、河本準一氏やキングコング梶原雄太氏問題というのは、河本氏や梶原氏の問題である(報道後、生活保護を受けなくてもすむ方法をただちにとれるわけですから、両人が、過去、扶養義務を十分に果たしてこなかったことは、明らかです。)と同時に、行政ができる事後の調査や処理を行ったという職務怠慢という不祥事がからんだ問題であることが明らかです。
ですから、この問題で、行政側から真相が出てくることはあまり期待できません。担当者自らの職務怠慢を認めるようなものだからです。それが”個人責任”だけを求めていくような報道となっていることにも現れています。
ですが生活保護費は、われわれ国民の税金です。
公務員にとっては、しょせん他人の金なんです。
だからこそ、この問題は、メディアや住民による監視が絶対に必要なゆえんです。
この事件を、個人の単なるモラルの問題だと矮小化するのは、問題です。
そして本来なら、問題となっている自治体(岡山市(次長課長の河本準一氏の場合)や大阪市長(キングコング梶原雄太氏の場合)が、公務員の怠慢を調査して、公表するなどの姿勢が必要ですが、そのような気配が見られないことは、本当に不可解です。
そのうえで、生活保護費支給後の調査手続を煩雑にすれば、経費や労力上、かえって生活保護行政予算を押し上げるというのであれば、生活保護法を改正して、扶養義務と生活保護の結びつきを、なくすべきです。
そもそも生活保護を受けている受給者の親族もまた生活が苦しいのが一般的で、今回の次長課長の河本準一氏やキングコング梶原雄太氏の問題は、あくまでも例外的な事象であることを考えると、あえて調査義務を高度に課すと、かえって経費が増えることが懸念されます。
つまり僕は、欧米先進国の例と同様、家族間にモラルを要求するかのような扶養義務はできるだけ制限すべきという立場から、そもそも扶養義務と生活保護は、同居の親族間や、扶養義務者が高額所得者である場合を除き、原則として、切り離すべきだろうと思っています。
そのうえで、行政側の対応としても、生活保護制度と職安制度は、縦割りではなく、少なくとも所管として一本化し、窓口共通にすべきだと思っています。
この点、旧厚生省所管と旧労働省所管という制度は、すでに厚生労働省に一本化しているわけですから、厚生労働大臣の小宮山洋子さんは、これ以上の財政支出をせず、さらには失業率を下げ、税収を増やすという一石二鳥の政策として、大ナタをふるってほしいと思います。
年金も厚生労働省所管ですが、年金の支給時期、支給対象者、支給額も生活保護制度と密接に関連しており、生活保護制度と、同じ所管で、一本化した方がいいと思っています。
[参考]
・生活保護法
・民法の扶養義務の規定
第七章 扶養
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
(扶養の順位)
第八百七十八条 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。
(扶養の程度又は方法)
第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
(扶養請求権の処分の禁止)
第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。
次長課長の河本準一氏の記者会見=5月25日(金)午前11時
【会見出席者】
■次長課長 河本準一 氏
■株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー 専務取締役 竹中功 氏
■吉本興業株式会社 法務本部長 渡邊宙志 氏
キングコング梶原雄太氏の記者会見=5月30日(水)
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