ソープランドや詐欺の舞台ともなる宗教法人
非課税の宗教法人をめぐる事件として、
論点1 ラブホテルを実質上宗教法人が経営していた
論点2 休眠宗教法人が売買されていた
という二つの論点が問題となる事件がおきていますが、
過去にさかのぼると、こんな事件があります(下線は紀藤)。
◎論点1について
□朝日新聞1987.04.03 東京朝刊 26頁 2社 (全459字)
ソープランド経営の柿本寺元管長に22億円の追徴
大阪国税局は2日、宗教法人を隠れみのに多数のソープランドを事実上経営していた「柿本寺」の元管長・伊藤義文(41)=売春防止法違反で起訴拘置中=に対し、重加算税を含め約22億円の所得税を追徴する更正処分を決定し、関係者に通知した。ソープランドであげた巨額の利益をそっくり伊藤個人の所得と認定したもので、個人の追徴としては異例の高額となった。
同国税局などの調べによると、伊藤は大阪のミナミとキタで、最高17軒ものソープランドを経営。57年から60年までに、計85億円の売り上げがあったが、赤字申告や無申告を繰り返し、約25億円の所得をごまかした。
ソープランドは「柿本寺」とは無関係の会社、個人名義になっており、伊藤とはつながりのない形をとっていたが、国税局は店長らの証言などから各店の売り上げの3分の1が伊藤に渡っていたことをつかみ、利益のすべてが伊藤個人の所得にあたるとして、所得税約17億円、重加算税約5億円を追徴した。
宗教法人・柿本寺は伊藤が57年3月に奈良県の認可を受けて設立。水子供養などの宗教事業を行っていた。
◎論点2について
□朝日新聞1999.07.06 名古屋朝刊 25頁 3社 (全2,890字)
霊視、詐欺か宗教行為か 明覚寺事件、8日から判決 【名古屋】
宗教法人明覚寺(和歌山県高野町)グループによる「霊視商法詐欺事件」の公判が大詰めを迎えた。系列寺院元住職の冨永和子(改名し現在は宇崎晴翔)被告(五二)に対しては八日に、教団ナンバー2だった同寺前管長矢野敬二郎被告(四〇)には十三日に、教団最高幹部で同寺元管長の西川義俊被告(五九)には十九日に、相次いで判決が言い渡される。三年以上にわたる名古屋地裁での公判で、三人は一貫して無罪を主張。悩み事の相談に訪れた主婦らから「供養料」名目で多額の現金を受け取ったことが、詐欺なのか宗教行為なのかをめぐって争われた。認証を受けた宗教法人の布教活動自体が詐欺とみなされ、トップの刑事責任が問われるのは初めてのことだ。
●「霊能力ない」
検察側は、不安をあおるマニュアルの存在やすでに有罪が確定した僧りょらが「霊を見る能力がなかった」と供述していること、被害者が「霊能力がないと分かっていれば、供養料を払わなかった」と証言していることを根拠に、教団のしていたことは「宗教活動に名を借りた詐欺行為だ」と指摘した。西川被告については「組織的犯行を背後から指揮し、多額の利益を得ていた主犯」ととらえて、懲役七年を求刑した。
「努めて宗教論争に持ち込まない戦術」をとった検察側に対し、弁護側は「信教の自由」を盾に、真っ向から論争を挑んだ。
霊能力とは「霊を見る力」でなく、真言宗の加持祈とうによる「加持力」であると主張、検察側は教義を理解していないと批判した。僧りょには「霊を供養して成仏させ悩み事を解決する能力」があったと反論した。
検察側が具体的に詐欺の共謀の日時や場所を特定していないことも、幹部らの無罪の根拠だとしている。
●許容基準は?
弁護側が特に強調しているのは、宗教はいずれも非科学的な面を含んでいるということだ。「どこまでが宗教として許され、どこから詐欺になるのか、基準を示せ」と迫っている。
祈とう師が、祈とうが治療に全く効果がないと知りながら、効果があるように装って金品を得たことが、詐欺とされた例がある。一九五六年に最高裁が、「祈とうの効果を信じないで祈とう料を受け取った場合は詐欺罪が成立する」と判示した。
これについて、宗教に詳しい学者の中には、「科学を超えた超自然的なことだから、全く効果がないと信じていても、直ちにだましたことにはならない」と否定的に解する意見がある。弁護側は、この学者の意見を引用した。
また、いわゆる「霊感商法」をめぐり、先祖の因縁や霊界の話をもとに献金を勧誘する行為の是非が争われた民事訴訟で、福岡地裁は九四年、「要求の目的、方法、結果が社会通念に照らして相当なら、宗教的活動の範囲内だ」との基準を示した。
今回の事件でも、内心の信仰でなく、供養料の要求の仕方など外形的な行為が、「社会的相当性を逸脱していないか」が問われている。
●民事は和解
全国に系列寺院約三十カ所、信者は二万人いたとされるグループも、教団トップの逮捕で「壊滅的な打撃」(弁護側)を受けた。明覚寺には数人がとどまり、位はいの供養などを続けてきたという。
結審が近づいた昨年十一月、高野山真言宗の総本山金剛峰寺(和歌山県高野町)が、近くにある明覚寺の施設を買い取った。売却で得た金をもとに、全国七地裁で被害者から提起されていた民事訴訟の和解を急ぎ、明覚寺側が約十一億円を支払うことで合意した。
一方で、検察側は、「多くの被害者の犠牲のうえで建設したものを売っただけで、被告は経済的に何の痛みも受けていない」と批判。教団にはまだ巨額の資産があり、「活動を再開させる危険がある」と実刑判決を求めている。
●解散請求も
国民生活センターによると、霊視、霊感商法や祈とうサービスに関する相談件数は、千百件を超えた九二年がピークで、最近は年間六百件前後で推移している。こうした被害は、文部大臣や都道府県の認証を受けない新興の団体などで多く出ているという。
今回の事件で、明覚寺とその前身の本覚寺(茨城県大子町)はともに、宗教法人の認証を受けていた。明覚寺は休眠法人を買い取ったものだ。
文化庁宗教法人室はいま、休眠法人などの解散手続きを積極的に進めている。宗教法人法は、「著しく公共の福祉を害する行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」をした場合を、解散の要件として挙げている。これらの要件に該当したとして裁判所が解散命令を出したのは、東京都が所轄するオウム真理教の例があるだけ。文化庁の所轄では例がない。
同室の担当者は明覚寺について、「判決の中身しだいで、裁判所への解散請求を検討する」としている。
<霊視商法詐欺事件> 明覚寺系列の満願寺(名古屋市中区)に対して、愛知県警が一九九五年十月に強制捜査に着手。九六年三月までに僧りょ九人とグループ最高幹部の西川、矢野両被告の計十一人が詐欺罪で起訴された。冨永被告を除く僧りょ八人は公判で罪を認めて有罪が確定した。
起訴状によると、チラシなどを見て悩み事相談に訪れた主婦らに霊能力があるように装い、「水子の霊が取りついている。供養しないと命まで落としかねない」などと不安をあおり、「供養料」名目で一人あたり数十万から数百万円の現金をだまし取ったとされる。
検察側によると、八五年ごろからこうした相談を受けていた西川被告は、真言宗醍醐派の高僧に接近。僧籍を得て本覚寺(茨城県大子町)を設立し、系列寺院を各地に広げた。民事訴訟が相次ぐなど批判が高まると、九三年、休眠状態だった明覚寺に拠点を移した。マニュアルをつくり、寺院や僧りょにノルマを課して集金の実績で位や給料を決めていた。九三年一月から九五年十月までに、百二十億円以上を集めたという。
検察側は冨永被告(被害額千五百七十五万円)に懲役三年、矢野被告(同二千百五十一万円)に懲役五年、西川被告(同二千百五十一万円)に懲役七年を求刑した。
◆霊視商法詐欺事件をめぐる経過
1987年5月 西川義俊被告が茨城県大子町に真言宗醍醐派の寺院として
本覚寺を設立。宗教法人として登記。
92年 3月 休眠宗教法人の明覚寺(和歌山県海南市)を買収。翌年に
かけて活動の拠点を移す。
11月 首都圏の35人が本覚寺を相手に供養料の返還を求めて東
京地裁に1次提訴。以後、各地に提訴の動きが広がる。
93年 3月 矢野敬二郎被告が西川被告に代わり、明覚寺の代表役員に
就任。
94年11月 明覚寺の系列寺院として名古屋市中区に満願寺を設立する。
95年 5月 計7億円の賠償を求めていた東京地裁の1~7次訴訟は、
本覚寺側が約5億円を支払うことで和解。
10月 愛知県警が満願寺を詐欺の疑いで摘発、住職の冨永和子被
告らを逮捕。
12月 愛知県内の主婦ら38人が明覚寺と西川被告らを相手取り
、供養料の返還を求めて名古屋地裁に1次提訴(以後3次
まで)。
96年 2月 愛知県警が西川、矢野両被告を詐欺の疑いで逮捕。
5月 西川、矢野両被告が初公判で起訴事実を否認。
7月 冨永被告を除き、起訴事実を認めた僧りょ8人全員に一審
で有罪判決が出る。
98年11月 和歌山県高野町の高野山真言宗総本山金剛峰寺が明覚寺を
約16億円で買い取り、位はいの永代供養を引き継ぐこと
で合意。
99年 1月 全国の325人が計12億円の損害賠償を求めていた訴訟
が、明覚寺側が約11億円を払うことで裁判外での一括和
解が成立。
□朝日新聞 1999.07.19 名古屋夕刊 2頁 2社 (全1,512字)
宗教行為の社会通念逸脱は処罰 明覚寺詐欺<解説> 【名古屋】
「詐欺」か「宗教行為」かが争われた明覚寺グループの霊視商法事件で、名古屋地裁は教団最高幹部に詐欺罪を適用し、組織的な犯行と認定した。要求の仕方や法外な供養料などが社会通念を逸脱していれば、たとえ宗教行為として行われても違法性は阻却されず、処罰されることを明確に示した。一九八〇年代後半から後を絶たない類似の商法に、警鐘を鳴らした点で大きな意義を持つ判決となった。
事件は、民事訴訟が相次ぐなど教団への批判が高まる中で摘発された。一連のオウム真理教の事件が起き、世論の「追い風」を受けて捜査が進んだ。捜査当局は、不安をあおるマニュアルの存在や修行の実態から、教団がいう「霊能力」が実体のないことを暴いた。教団の宗教行為そのものを詐欺とみなして、初めてトップの摘発に踏み切った。
これまでに、「霊感商法」の是非が争われた民事訴訟の判決で、「要求の目的、方法、結果が社会通念に照らして相当であれば、宗教的活動の範囲内だ」との基準を示した例はあった。「信教の自由」は内心の信仰にとどまる限りは何ら制約を受けないが、外形的、客観的な行為が社会通念上許される範囲を超えれば、民事上の不法行為を構成するという考えだ。
今回の判決も、これと同じ考え方に立った。信仰や教義の内容にはいっさい踏み込まないで、相手方の「弱み」につけこんで不安をあおったうえで執ように高額の金を要求するといった方法などが、許容範囲を超えて違法だと判断した。
その一方で、「社会通念に照らして相当なら、能力や供養の効果を説く際に多少の誇張があったとしても、直ちに違法とはいえない」と付け加え、超自然的な側面がある宗教行為に一定の理解を示して、「信教の自由」との調和を図った。
今回の事件で宗教法人が悪用された背景には、休眠法人が安価で売買されている実態がある。税制上の優遇などを受ける公益法人が悪用されるのを防ぐため、活動の実態に踏み込んだ行政側の厳しい監督も一層求められる。(岩田清隆)
○公権力介入すべきでない
元札幌高検検事長の佐藤道夫参議院議員 「お金を出してお祈りすれば、御利益がある。出さないと罰が当たる」と説くのは、ほかの宗教もしている。良識と判断力を備えている大人が金を払うのだから、それは払った者の自己責任。その結果、幸せになる人もいるし、だまされたと感じる人もいるだろう。これを詐欺というのなら、ほかの宗教も取り締まらないといけなくなる。基本的に宗教活動の自由の範囲内であり、公権力が介入するべき問題ではなかったと思う。捜査は「信教の自由」を侵している。
○宗教家への警鐘の意義大
関東学園大法学部の大嶋一泰教授(刑事法) 宗教に警察が介入することは、「信教の自由」を害するおそれがあるから、決して望ましいことではない。しかし、「信教の自由」といえども、公共の福祉に反することは許されない。御利益がないことが分かっていて、詐欺とすれすれのところで生きている宗教家も多いのが実情だ。人の弱みにつけこんで、言葉巧みに法外なお布施を受け取ると、犯罪となる場合があることを宗教家に示した点で、判決の意義は大きいと思う。
○他の悪質団体にもメスを
全国霊感商法対策弁護士連絡会の紀藤正樹弁護士 判決は「供養の効果などに多少の誇張があっても、直ちに違法といえない」と述べ、「信教の自由」に配慮して一般の詐欺事件より要件を緩やかに解した点で疑問が残る。とはいえ、この種のトラブルに初めて刑事司法のメスが入り、組織犯罪と認定されたことは画期的だ。今回はだれが見ても詐欺と明らかに分かるケースだが、ほかの悪質な団体にも今後メスを入れ、判例を重ねていけば、合法的な宗教行為との区別基準もはっきりしてくるだろう。
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